4/28

愉快な音楽のピッチがいやに歪んで聞こえた。僕にはそれを正とする外なかったのだけれど、眠れる森のナントカのように美しくつつましく待っていることもできずに走り出した。きみは月の光さえ反射して耀くような、妖精のような、そんな尊いひとで、それなら僕は悪役にもなり切れないからきみのそばで羽虫のように飛び回ってみせた。きれいな言葉はいらなかった。そこに理由なんてなかった。最低な気持ちをぜんぶ拾って僕に投げつけられたみたいだ。僕はそれをまたぜんぶ拾って投げ返した。後ろ指はあすの自分に。

2/26

整備された道は味気がないと言った。

わたしはそうは思わないけれど、とりあえず頷いた。きみは満足げだった。

なぞって確かめるみたいに単純だったらよかった。

きみみたいに全部が純な悪だったらよかった。

人生だって勘違いで成り立っているようなものなのに、ぜんぶ壊れるのが怖かった。

あの日の屋根の上には灰色の走馬灯がうかんだ。

愛したものだけひとつずつ数えた。

土と一緒になる日を待ち望んでいた。

きみは幸せそうに哭く。

ずっと待っていたんだ。

ありったけの殺意は空を切った。

おはようと呟いた。

世界が睡る4秒前。

12/31

今日も昨日と変わらない明日なのに、たった1年の最後の日というだけで特別な気持ちになる私も、案外世の中に絆されているのかもしれない。

眩しい朝の光とか、帰路に香る生活の匂いとか、暖かなものは今年も好きにはなれなかった。やさしい気持ちを知らずに生きていたから、やさしいものを好きになれなかった。

愛されることへの抵抗感も拭いきることはできなかった。自分を愛せないから誰かのことも大切にできなかった。来る年を迎える心構えにしてはいやに後ろ向きかもしれない。そんな言葉を来年の今日には忘れるように生きねばと、思う。

11/4

自分の呼吸の音が酷く不快だった。

貴方に届かない場所でずっと歌っているあの日の私みたいだった。

叱責の声ももう聞こえなくて、ほらねって微笑む風のさざめきが愛おしかった。

どこに行ったのだろう。

皆目見当の付かない問だ。

貴方へ捧げた昨夜の言葉とか、全部聞こえないままでよかった。

貴方が甲斐性なしでよかった。

きっとこのまま死にゆく解だ。

大丈夫と呟いた。

大丈夫と言い聞かせた。

これらの遊楽を許すまじと。

10/11

ちいさな液晶板が生命線だった

握っているのは世界 僕らの世界

きみの声が聞こえないから

それならって僕は穿ったんだ

きらいな色の夜が来て

きみは明日のほうを向いていた

僕だけ昨日に引きずられては

生きられない理由ばかりを

大切に大切にあたためていた

汚い手のひらではきみを守れなくて

渋滞で連なる灯りは

僕らを連れていってはくれない

 

遠くへいくんだね、

きみは強くなったんだ

僕がいない世界できっと羽ばたく

そのとき微かにきこえる声は

きみをいつしか殺してしまう

思い出して

長いあいだ溶かしていた気持ちを

最低だった日々のかけらを

もういかなきゃ きみはパイロット

その小さな手で桿をにぎるんだ

 

そうして本当にひとりになった僕は

幾ばくの思いや理由に踏みつぶされて

苦しまぎれに死ねない理由を探すのだ

そこにあっても見えないから

遠くなっても見えないから

賞味期限がすぎてもなお

歩みをとめたりできないんだ